歩け歩けの日

朝、集まったみんなに
自作の紙飛行機をひとり一人にくばるSrくん。
「お菓子もってきた?」と確認しあう子どもたち。
前日のSくんの提案もあり、
おうちでも飛行場まで歩く話をしているのだろう。
どの子も気持ちが高まっているようだ。

クスクスでは、いつも子どもたちが
行きたいところに行き、遊びたいことで遊ぶ。
今回のように予め「目的地」を「大人」が設定することは珍しい。

飛行場までは行っても行かなくてもいい。
みんなの気持ち次第。ひとり一人の気持ち次第。
そんな心持ちでこの日を迎えた。

「そろそろ、出発しようかー」。
ゆるりと歩みがスタートした。
いつもの通りマイペース。

花を摘み、枝を携え、ひたすら歩いた。

お母さんの手づくりお菓子を、みんなで分け合った。

保育者がタマゴをみつけ、音をきいたり、語り合った。

小サギとカモが泳ぐ風景を、そーっと観察した。

後ろの子をまっている間に、ザリガニをみつけた。

馬小屋の前では、馬にのりたい気持ちになった。

「今日は、みんなで飛行場まで行くんだ」

マイペースに歩みを進めながらも、
それぞれの胸には、いつもと違う
ちいさな決意のようなものがあったように感じた。

柵をのりこえ、道路をわたり、
2時間かけて飛行場についた。

飛行場のとなりの公園で、
「ここでは今しか遊べない」とばかりに夢中に駆け回る。

飛行機が離陸する。うなり声をあげる。
みんながいっせいに、機体の方に全神経を集中させる。
そのちいさなひとり一人の背中が、とても愛おしかった。


帰りも2時間、てくてく歩いた。
ときどき雨や雷にもあったけど、
休みながら、泣きながら、歌いながら
とにかく歩いた。

もうすぐだよ。
だいじょうぶだよ。

後半は、祈りを言葉にかえて、
ただただ、寄り添うことに専念した。

みんなで歩いたから、
お母さんの手づくりのお菓子もあったから、
一歩一歩、歩みを進めることができたんだね。

ほんとうに、よくがんばった。

たいへんな気持ち、たのしい気持ち、
お母さんにあいたい気持ちを
リュックと共にわが身に背負って
共に歩いた道のり。

お母さんに再会して、軽やかになった
そのちいさな背中は、やっぱり愛おしかった。

(文:保育者まゆ)