一本の竹を伐った。
ひとり一人が、ちょっとずつ。
ノコギリを握りしめ、竹と向きあい、
仲間に見守られながら
ひとり一人が、竹を伐った。
天までとどきそうなその竹は、
たくさんのドキドキをくれた。
「ここなら、上までみえそうー」。
竹のてっぺんを見たくて、
ベストポジションを探し、空を仰いだ。
「ここをもって!」
「背中をおして!」
「ひっぱるんじゃないの!」。
だれかが竹を支えたり、支える人を他の仲間が支えたり。
「がんばってー」
「マンションに当たるかも!」
「こっちにたおれるよ、まゆさんあぶない!」。
竹一本の行く末に、だれもが固唾を飲んで見守った。
目の前にそびえ立つ
高い高い竹を、
みんながひとつになって伐った。
七夕の神様、ありがとう。
竹は、この後も、ひとり一人に
いっそうの記憶を残してくれた。
…ギコギコ、ギコギコ。
指に傷をつくると分かる。
伐るときは、
まっすぐな気持ちじゃないとダメなんだ。
…ギコギコ、ギコギコ。
「つかれたー」。口ではそういいながら、
からだは「やめたくない」と動き続け、
お弁当の時間以外は、ずっと伐り続けた。
…ギコギコ、ギコギコ。
「まだ、きりたい!」
「もっと、きりたい!」
「ひとりで、きりたい!」
いつもは、それぞれの枝を
それぞれが伐っているけれど、今日は違う。
…ギコギコ、ギコギコ。
力を合わせて伐った一本の長い長い竹を、
分け合って伐っている。
…ギコギコ、ギコギコ。
「ここあぶないよー」
「こっちきったら?」
「もう!ふまないでよー!」
…ギコギコ、ギコギコ。
竹の記憶が、ひとり一人に
しみこんでいるに違いない。
頭にではなく、
強くにぎった、ちいさな手の中に。
七夕の神様、
ありがとうございました。
(文:保育者まゆ)